ショートフォールの空模様 Skyscapes of Shortfoal, the Loneliest Islands

記録Records

  • 『創世のひかり』The Light of Genesis
  • 『漂泊記 上』Castaways I
  • 『漂泊記 下』Castaways Ⅱ
  • 『K先生についての証言』Zeugnisse über Professor K
  • 『新島報告』Niijima Report
  • 『二重奏』Duos
  • 『みんな月へ行った』Everyone's Gone to the Moon
  • 『これを拾った誰かへ』Bouteille à la Mer
  • 『往復書簡』Allilografía
  • 『岬の図書館』Cape Library
  • 『6月27日のデイリー・ポート・ノイマン』Daily Port Neumann on 27th June
  • 『遠洋旅行記』Pelagic Travelogue
  • 『温室の忘れもの』Ein Vergessene Ding im Gewächshaus
  • 『ピュシスとモーリオ』Phusis et Morio
  • 『研究室だより』News from Laboratory
  • 『先史学論究』Proïstoría
  • 洲壤浮漂くにつちのうかびただよへるDrifting Lands
  • 『礼拝堂の映画館』Chapel Theater
  • 『非線形詩学』Poïétique Nonlinéaire
  • 『リセ・アクリリーク』Lycée Acrylique
  • 『天気概況』General Weather Conditions
  • 『群島観光の手引』Brochures
  • 『サニトリア・レイスの出自』Ursprung von Sanitoria Wraith
  • 『神のみことばを世の果てまで』A Missionary's Life
  • 『紙片』Papierstücke
  • 『ベルヌーイ紀行』Bernoulli Travels
  • 『音階島周遊記』A Journey Around the Serial Islands
  • 『童話』Kinderszenen
  • 『三重奏』Trios
  • 『歌曲』Songs
  • 『預言の聴きかた』A Guide to Receive Prophecy
  • 『迷宮の歩きかた』A Guide to Solve the Labyrinth
  • 『無限遠と矛盾律』Infinitum et Lex Contradictoriarum
  • 『無限小と原子論』Infiniteparva et Atomism
  • 『サウンド・テレコネクション』Sound Teleconnection
  • 『もしかしてペトリコール?』Did You Mean Petrichor?
  • 『ウィストーリア・バシュオー多様体』Wistaria Bashou Manifold
  • 『戦訓特報第9号』Naval Dispatch #9
  • 『要塞島から』From the Fortified Island
  • 『映画時評』Filmkritik
  • 『きのう私が遺したメモ』Une Note que J'ai Laissée Hier
  • 『幸復の島構想』Island of Allheal Concept
  • 『仔馬会句集 第十六号』Shortfoal Poetry #16
  • 『つれづればなし』Tales in Idleness
  • 彌果いやはてのエピファニア』Epifania at the World's Very End
  • 『余白,余白,余白.』Silence, Silence, Silence.
  • 『思いで』Des Souvenirs
  • 『忘西の一夜』Spend a Night at Bōsei
  • 『演習 1』Exercise 1
  • かばねノ白』Blanche du Corps
  • 『よりものひろい』Beachcombing
  • 『書物のなかのモンテカルロ』Imaginary Monte Carlo
  • 『市民科学の友』Citizen Science Handbook
  • 『エカタ観光局』Êcata Travel Bureau
  • 『政府広報号外第324号』Official Gazette Extra #324
  • 『圣ヶ崎の戦い』Battle of Hijirigasaki
  • 『観察野帖』Feldtagebücher
  • 『ヒンメルブラウと無知の淵』Himmelblau and Frontier of Ignorance
  • 『ノイマンの手記』Notes of Neumann
  • 『負の遺産』Die Negative Erbschaft
  • 『主なき棲巣すみかThe Ownerless Nest
  • 『泊博士』Le Docteur Tomari
  • 『木々の暗がりの中へ』Hinter den Bäumen
  • 『手稿 B』Manuscript B
  • 『海霧』Der Seenebel
  • 『13号環礁』Atoll 13
  • 気象予報のための組曲Suite for Shortfoal Weather Forecast

  • 『第1類:模写放送・Ⅰ』Cª 1 Facsimile Broadcast · I
  • 『第2類:濃霧警報』Cª 2 : Fog Alert
  • 『第3類:朝子のポートレイト』Cª 3 : A portrait of Asako Tomari
  • 『第4類:雲の組成と種別』Cª 4 : Formation and Classifications of Clouds
  • 『第5類:空気より軽い』Cª 5 : Lighter than Air
  • 『第6類:観察野帖』Cª 6 : Fragments of the World Report
  • 『第7類:歌のアルバム』Cª 7 : Songbooks
  • 『第8類:模写放送・Ⅱ』Cª 8 : Facsimile Broadcast · Ⅱ
  • 『第9類:海に還るまち』Cª 9 : A Weathering World
  • 補稿Appendix

  • 『ご案内』Notice
  • 創世のひかり The Light of Genesis

    1

    1:1遠く.海の向こうの遥か遠くに,ショートフォール群島という小さな島々があります. 1:2大陸から極めて隔てられた海域に伐ち棄てられたその市街は,いつしか土に還りはじめていました. 1:3残ったのは,街が造られる以前からそこにあった測候所だけでした. 1:4そこでは,ひとりの少女が,老夫とふたりきりで,静かにそのつとめを果たしていました.

    2

    2:1透きとおる青空の下を,秋の風が岬めがけてなめらかに吹き抜けてゆきます.

    漂泊記 上Castaways I

    1

    1:1道は,そこで途切れていました. 1:2朝子は自転車から降り,腰のあたりまで伸びた草むらを前にして,軽装で来てしまった不用意を,今更ながらに悔いていました.けれどそこで引き返そうという気持ちには,結局なれなかったのです. 1:3ラボのすぐ南方にある,あのとてつもなく背の高いロランCは,いよいよ霞の中に消えてしまいそうなほど遠くになっていました.そして振り向けば,幾つものパラボラを付けた小さな鉄塔がひとつ,視界にはっきり入るようになっていました. 1:4目的地までは,そう遠くないはずでした.朝露がスカートの裾を濡らすのを気に留める間もなく,朝子は草むらの奥へと惹き込まれていきました. 1:5やはりそこは,かつて確かに道だったのです.幾年もひとの手入れがなかったせいで,しだいに草がアスファルトを破るようになり,いまや,草むらを踏みしめた感触のなかに,わずかに礫の堅さを見出せるかどうかという程にまで,路面は粉々になっているのでした. 1:6それでも,その僅かな欠片は,程なく鉄塔の許へたどり着けるだろうと朝子が見通しを立てるためには,充分頼りになるものでした. 1:7雲はもう,夏のかたちをしていました.夏になってしまったら道はとうとう草木に覆い尽くされて,この先へ進めなくなるのは明らかでした.鉄塔が朝日を反射して光っているうちにそのもとへ辿り着けるようにと,朝子はすこし急ぎました. 1:8気づいたときにはすでに,あらゆるものが知りえない理由で自転しているのでした.何ひとつ滞りなく,全てが不確かな終わりのほうを向いていました. 1:9空の青さが,そのすべてを肯定しているように思われます.

    2

    2:1終わりを迎えることを恐れるみたいに,あらゆることを中断したままで,鉄塔はそこにありました. 2:2フランス語の標識を掲げた防護柵の金網は錆びて千切れていました.計器にはなにも記録されておらず,異常灯だけが赤く正しく灯りつづけていました.

    13号環礁Atoll 13

    1

    1:1一滴の雨粒が,額へぽとり,と落ちてきました。 1:2つづけてぽとり,ぽとり,ぽとり,ぽとり。やがて雫は頬を伝って流れはじめました。 1:3朝子は傘をとじたまま,静かに降るあたたかい夏の雨を,いつまでも受けとめていました。

    気象予報のための組曲 Suite for Shortfoal Weather Forecast

    第1類:模写放送・Ⅰ Cª 1 Facsimile Broadcast · I

  • 101模写放送:地上解析 1(2'11")ASXX / SURFACE ANALYSIS 1
  • 102模写放送:テストチャート(1'47")TEST CHART
  • 103プロペラ(0'27")PROPELLER
  • 104悪天予想図(0'25")SIGNIFICANT WEATHER PROGNOSIS
  • 105模写放送:39, 000ftの航空用24時間予想(1'05")I390 / FL390 WIND, TEMPERATURE (H+24)
  • 106模写放送:地上解析 2(1'39")ASXX / SURFACE ANALYSIS 2
  • 107模写放送:傾度風解析 A(0'43")AUXX / GRADIENT LEVEL WIND ANALYSIS PART A
  • 108静止気象衛星による雲写真(2'26")METEOLOGICAL SATELLITE PICTURE (GMS)
  • 109ローカル天気図(0'53")LOCALLY WEATHER DEPICTION
  • 110ラジオゾンデ(2'02")RADIOSONDE'
  • 第2類:濃霧警報 Cª 2 : Fog Alert

  • 201警戒水準・Ⅱ(1'56")Alert Level Ⅱ
  • 202警戒水準・Ⅲ(2'02")Alert Level Ⅲ
  • 203警戒水準・Ⅰ(2'06")Alert Level Ⅰ
  • 204灯浮標・Ⅰ(1'25")Buoy · Ⅰ
  • 205灯浮標・Ⅱ(0'56")Buoy · Ⅱ
  • 206警戒水準・Ⅳ(2'06")Alert Level Ⅳ
  • 207灯浮標・Ⅲ(0'56")Buoy · Ⅲ
  • 208灯浮標・Ⅳ(0'56")Buoy · Ⅳ
  • 209警戒水準・Ⅴ(2'06")Alert Level Ⅴ
  • 210警戒水準・Ⅵ(2'06")Alert Level Ⅵ
  • 211霧笛(3'02")Foghorn
  • 第8類:模写放送・Ⅱ Cª 8 : Facsimile Broadcast · Ⅱ

  • 801北東20ノット(1'56")NE 20Knots
  • 802凍結高度図(2'02")AXXX / Freezing Level Chart
  • 803圏界面(2'06")FXXX / Tropopause Forecast
  • 804雲解析(1'25")ANXX / Nephanalysis
  • 805250hPaの高層予想(0'56")FUXX / Upper Air Prognosis. 250hPa
  • 806沿岸波浪状況(2'06")AWXX / Wave Analysis
  • 807流線予想図(0'56")Stream Line Prognosis
  • 808地上24時間予想(0'56")FSXX / Surface Prognosis (H+24)
  • 809平均海面水温図(2'06")Surface Water Temp & Mean Monthly Climatic Conditions
  • 810傾度風解析B(2'06")AUXX / Gradient Level Wind Analysis Part B
  • 811うねり24時間予想(3'02")FWXX / Swell (H+24)
  • 811警報と概況(3'02")WWXX / Warning and Weather Summary
  • 補稿 Appendix

    ご案内 Notice

    1

    1:1これらは,実在しない世界の,架空の記録です. 1:2もし,この島にまつわることについて,ここに記録されていないことをご存じの方がいるならば,どのような人でも,記録を補うことが許されています.すでにお解りのように,これらの記録は聖書の構成を借用したかたちで記されていますが,聖書のように[Rev.22:18]加筆を禁じられてはいません.